テレビ業界の内幕を描いたコメディードラマ「30Rock」で、やり手だけど部下にとっては少々うっとうしい上司を好演中のアレック・ボールドウィン。貫禄たっぷりの体型は政治家役にもピッタリですが、どうやらその方面にも興味津々な様子です。

KYな上司ぶりが大ウケ

　「30Rock」は、架空の深夜バラエティー番組制作現場を舞台にした、アメリカで人気のコメディードラマ。アレック・ボールドウィンは、主人公である放送作家リズの上司、ジャック・ドナギーを演じています。アレック演じるジャックは親会社から突然赴任してきたのですが、ワンマンなうえに会議でだじゃれやトンデモ企画を次々提案。さらにリズのプライベートにも口を出す…。しかも本人はよかれと思っているだけにタチが悪いという、いわゆるＫＹな困った上司。こういうボスって、日本の会社にもいますよね。

　働く女性たちが大いに共感できそうなこのドラマは2006年に放送がスタートしており、アレックはこの役でゴールデングローブ賞、エミー賞、全米映画俳優組合（SAG）賞の主演男優賞を2007年から2010年にかけて何度も受賞しています。

　そんなアレックは俳優としてのキャリアはテレビドラマからスタートしました。ソープオペラと呼ばれる昼メロで有名になり、その後映画に進出。2003年の「The Cooler」という作品でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたほか、舞台では「欲望という名の電車」でトニー賞候補に選ばれたこともある名優です。また人気コメディー番組「サタデーナイトライブ」にも数多く出演しており、コメディーセンスも抜群。

　そうした実績を買われ、昨年のアカデミー賞授賞式では、スティーブ・マーティンと共同で司会進行役に抜擢され、息のあった掛け合いが大好評だったアレック。あんな大舞台で人を笑わすことができるとは、すごい才能ですよね。

娘への留守電メッセージで大騒動

　一方、プライベートに目を向けると、アレックは1991年に「あなたに恋のリフレイン」で共演したキム・ベイシンガーと1993年に結婚。娘のアイルランドちゃんが1995年に生まれています。と、ここまでは幸せいっぱいだったのですが、2001年１月に２人は離婚を申請し、2002年に離婚成立。しかも、その後長年にわたり、アイルランドちゃんの親権をめぐってキムと泥沼の法廷闘争を繰り広げていたことでも有名です。裁判のなかで、アレックが、面会権が認められているのに娘に会わせてもらえない、キムが娘にアレックは悪い人間だと言って洗脳していると訴えたれば、キムは長年にわたり肉体的、精神的苦痛を受けてきたとやり返したり。セレブらしい見栄やイメージなどかなぐり捨てたドロドロぶりだったのです。

　そんななか、2007年に起きたのがアレックの暴言メッセージ騒動。これは怒った口調のアレックが、アイルランドちゃんを侮辱する留守電メッセージを残し、それが流出してしまったというもの。アレックから電話をすると前もって決まっていたにもかかわらず、アイルランドちゃんが電話に出なかったのが原因だということですが、11歳の娘に対する言葉としてはひどすぎるという声が大多数で、アレックは後日「我が子にカッとしてしまった」と謝罪しています。

　その後もアイルランドちゃんと連絡は取れているそうですが、どうやらアレックは娘に対して感情的になりやすいタイプのよう。昨年、アカデミー賞授賞式目前にアレックが救急車で病院に担ぎ込まれるという事件があったのですが、これも原因はアイルランドちゃんと電話でケンカしたアレックが情緒不安定になったという報道もあったほどです。

　さらにアカデミー賞司会を無事つとめた後には、乗っていたリムジンがバックした拍子に、後ろに止まっていたタクシーにぶつかるという交通事故にも遭遇。事故や病院沙汰など笑えないネタが多いとはいえ、なかなかのお騒がせオジサンセレブぶりなのです。

2012年で俳優リタイアを発表

　ところが、そんなアレックも、最近、奇妙な言動を繰り返して主演ドラマから降板させられてしまったチャーリー・シーンには思わず説教。「ちょっと眠った方がいい。それからシャワーでも浴びて、電話をして謝罪しろ。もう一度仕事をさせてほしいと頭を下げるんだ」と、アドバイスして話題になりました。

　とはいえ、2009年にはアレック本人も、"自分はハリウッドの失敗作だ"と感じてしまったそうで、「演じることに興味がなくなった」「もう若くないんだし、他にやりたいことがある」と語り、「30Rock」の契約が終わる2012年で俳優業をリタイアすると発表しました。さらに、その後は政治家になる可能性も浮上。本人も「政治家になることにはとても興味がある。僕のような中流階級の人たちのことを深く考えている人間が公職につくことを人々は望んでいると思う」と発言しています。まだ2012年までには時間もあるので、それまでに気が変わる可能性も大いにありますが、彼がどんな選択をするのか、興味ありますよね。

　しかし、俳優としても引く手あまたで、新たな出演作も決定！　これは「ロック・オブ・エイジズ」という人気ミュージカルの映画化で、80年代にヒットしたロック・ミュージックをトム・クルーズをはじめとする有名俳優たちが歌うという注目作。アレックはナイトクラブを経営する元人気ロッカーを演じると言われています。

　もしかしたら、これが俳優最後の仕事!?　だとしたら、ちょっと残念ですよね。名優と言われても、50代になっても、公私にわたっておもしろい話題を提供してくれるアレック・ボールドウィン。できれば政治より映画やテレビで活躍し続けて欲しいな、と思います。

　【Profile】Alec Baldwin（アレック・ボールドウィン）　1958年4月3日、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。ニューヨーク大、リー・ストラスバーグ・インスティチュートで演技を学び、1980年にテレビデビュー。映画「レッド・オクトーバーを追え！」「あなたに恋のリフレイン」などに出演している他、舞台でも活躍。2006年からテレビドラマ「30Rock」に出演中

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（2011年3月23日  読売新聞）