Saving Grace
Saving Grace
Saving Grace
放送局: TNT
プレミア放送日: 7/23/2007 (Mon) 22:00-23:00
第2シーズン・プレミア放送日: 7/14/2008 (Mon) 22:00-23:00
製作総指揮: ナンシー・ミラー、ゲアリー・ファンドール、アーティ・マンデルバーグ
製作: ジョン・ライアン、ホリー・ハンター
クリエイター/脚本: ナンシー・ミラー
撮影: ウィリアム・ウェイジス
編集: ジョフリー・ロウランド、ポール・アンダーソン
美術: リック・ロバーツ
音楽: スーザン・マーダー
出演: ホリー・ハンター (グレイス・ハナダーコ)、リオン・リッピー (アール)、ケネス・ジョンソン (ハム・デューイ)、ベイリー・チェイス (リオン・クーリー)、ローラ・サン・ジャコモ (レッタ・ロドリゲス)、グレゴリー・クルス (ボビー・スティルウォーター)
物語: オクラホマの警察に勤める女性刑事のグレイスは、仕事を終えると酒浸り、男とは好きな時に寝るなど、私生活では問題を抱えていた。ある時、よりにもよってバーに寄った後、酒気帯びでポルシェを運転していたグレイスは人を撥ねてしまう。しかも呆然とするグレイスの前に現れたよれよれの中年男は、自分を天使のアールと自称し、疑惑のグレイスをよそに事件をなかったことにしてしまう。その時からアールは困った者を助けるのが自分の仕事とうそぶきながら、よきにつけ悪しきにつけことある毎にグレイスの前に現れ、助言したり事態をさらに混乱させたりするのだった‥‥
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アメリカのベイシック・ケーブルを代表するチャンネルといえば、何はともあれ「モンク (Monk)」を擁するUSAと、「ザ・クローザー (The Closer)」を擁するTNTの2つのチャンネルが両横綱だ。他にももちろん数多のチャンネルがあるが、視聴率、獲得視聴者数で両チャンネルに並ぶチャンネルはない。
一方、「モンク」以外に最近終了した「4400」、「ザ・デッド・ゾーン (The Dead Zone)」、現在放送中の「バーン・ノーティス (Burn Notice)」、「サイク (Psych)」、「スターター・ワイフ (Starter Wife)」等の人気番組を多く抱えるUSAに較べ、TNTの方は時折気になるTV映画やミニシリーズを編成するとはいえ、これといったドラマ・シリーズは、昨年までは「クローザー」しかなかった。そこへ現れたのが「セイヴィング・グレイス」で、「クローザー」ほどの圧倒的人気を博しているわけではないとはいえ、手堅い成績で推移、TNTが依然USAと並ぶ成績を収めるのに貢献している。
「セイヴィング・グレイス」は、何はともあれオスカー女優のホリー・ハンターがTVドラマに主演するということで注目された。しかもその内容というのが、ハンター演じる主人公のグレイスが私生活に問題を抱えている酒浸りの刑事で、さらにそのグレイスに助言や忠告、事件解決や私生活を問題なく送る上でのヒントを与え、あるいは事態を引っ掻き回すのが、見た目にはどこから見ても冴えないよれよれの中年男、そしてその実体は神から遣わされた天使アールだという、その突拍子のなさが大いに注目された。
グレイスはよりにもよって酒気帯びで愛車のポルシェを運転して人を撥ねてしまうのだが、そこへ現れたのがアールで、惑乱するグレイスを助けてあげるという。その時からグレイスとアールの共闘とも敵対とも言える微妙な関係が始まったのだった。昨シーズンはグレイスが幼い頃に教会の牧師からいたずらされていたという過去が明らかにされる。その牧師と再会したグレイスは牧師を自宅に監禁し、殺そうとするというところで終わっていた。第2シーズンのプレミア・エピソードでは、やはり人を殺せなかったグレイスは牧師を解放するが、結局他の者の手によって牧師は殺されてしまう。
一方、白昼、FBIのお尋ね者が事件を起こしたのを目撃したグレイスは男を追跡、結局男は警察犬と共に墜死する。ヒーローとして称えられるグレイスだったが、ある女性がグレイスは日中から酒を飲んでいたと言い張るためグレイスを大っぴらに表彰することができない。その女性と会ったグレイスは、彼女がグレイスの妹の親友で、かつてグレイスが酒に飲まれたせいで妹がオクラホマ爆破事件で死んだことを知っていたために、グレイスがヒーローとして称揚されることが我慢できなかったのだった。結局天使が身近にいても、自分の問題は自分で解決するしかなく、グレイスはやはり酒を手放せない。番組はそういうグレイスの葛藤、ジレンマ、活躍を描く。
いまだにニューヨーカーが9/11のことを完全には忘れることができないように、オクラホマ住民にとって1995年の連邦政府ビル爆破事件は心に生涯消えることのない傷跡を残した。グレイスもその一人であり、肉親を事件で失うが、しかも本当はそこにいたはずなのは自分で、二日酔いで唸っていた自分の代わりに妹が事件に巻き込まれて死亡してしまう。このことはグレイスに大きな自責の念をもたらし、ただでさえ酒浸りの生活がさらに酒量を増してしまう。それだけでなく、第1シーズンの終わりの方ではグレイスは幼い時に通っていた教会の牧師からいたずらされていたことも明らかになる。
とまあ、問題抱えまくりの主人公の女性刑事グレイスの魂の彷徨を描くのが「セイヴィング・グレイス」だ。普通、主人公は一つや二つの欠点を持っており、それを克服するのがドラマになったりするが、グレイスは人格的には長所よりも短所の方が多く、生活は平安を望むべくもない。だいたいグレイスの家のシーンになると、概ねカーテンを引いて酒浸りという描写ばかりになるので、昼か夜かほとんどわからなかったりする。
演じるハンターは出ずっぱりで、よくも悪くもハンターのためにある番組と言えよう。ただし、時折やり過ぎというか気負い過ぎが鼻につく嫌いもないではない。もうちょっと抑えて、リラックスして演じてもいいのではと思うが、役柄の設定がそういう演技を許さないということはあるかもしれない。グレイスのような体験をして、テンパらずに生きろという方が無理かとは確かに思うが、しかし毎回1時間ずっとああいうオーヴァー・ザ・トップの演技を見ていると疲れると思ってしまうのも事実だ。
さらに外国人の私としては、あの辺のイントネーションで早口でしゃべられると、聞き取りが追いつかなくて時折恐慌を来たす。これがヴィデオでなくて巻き戻せなかったら話の半分は理解できなかったに違いない。要するに「セイヴィング・グレイス」は、見てて疲れるのだ。ハンターは番組の製作総指揮も兼ねており、なにも好き好んでこういう役を、映画ではなくずっと出演が続くTVのドラマ・シリーズで演じなくてもいいだろうにと思ってしまう。身体は小さくてもやっぱり彼女も肉食民族だったか。
一方、主人公グレイスよりも番組の設定上で最も気になるのは、天使アールだ。基本的にアールはグレイスが一人きりの時に出て来るのだが、実は彼は時折他の者の前にも出現する。アールが見えるのはグレイス一人きりじゃないのだ。実際彼は、プレミアでは独房にいる死刑囚の一人とも関係があった。さらにグレイスにいたずらしていた牧師にもアールが見える。つまりアールは心に問題を抱えている者には見えるらしい。その上、グレイスの親友レッタは、アールの存在を理解している。いずれにしても、アールはプレミア・エピソードでグレイスの事故をなかったことにした以外は、人の心の闇をとり払うことにはほとんど貢献していないように見える。たぶん彼の役目は悩みをなくすことではなくて、悩んでいる者を� �めることにあるのだろう。だから彼が登場するのはいつも事件が終わった後だ。
共演はグレイスの親友で検死官のレッタに「ジャスト・シュート・ミー」のローラ・サン・ジャコモ、天使アールにHBOの「デッドウッド」に出ていたリオン・リッピー。捜査現場ではグレイスは紅一点なのだが、その強面の面々を前任者から引き継いでいる指揮官のケイト (ロレイン・トゥーサン) は女性、そして番組クリエイターは「クローザー」にも携わっていたナンシー・ミラーと、要所を占めるのはやはり女性だ。要するに「セイヴィング・グレイス」は、ハードボイルドに生きる女性を描く番組なのであった。男だって女だって、ハードボイルドは楽じゃない。
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